そうなんです。2012年に仙台で行われた震災シンポジウム講演会でのことです。
ユヌス氏は、ソーシャルビジネスのなかでも一番長く続いているグラミン銀行(バングラディッシュ)を創設された方で、ノーベル平和賞を受賞するなど世界的にも高い評価を受けている方です。
私は、ソーシャルビジネスについての思いをなんとか伝えたい気持ちから、ユヌス氏あての手紙を書いてもっていたのですが、講演後にトイレに向かって歩いて行かれるところを、大胆にも「ユヌスさん!」と日本語で呼び止めてしまいました。以前の私なら、こんなこと絶対にできなかったのですが(笑)。
はい。その日の夜に、ユヌス氏からメールをいただき、こんな一学生にもしっかりと対応してくださることに感動しました。そこから、グラミン銀行でのインターンシップの機会を得ることができました。
私は1ヵ月という短期間だったので、グラミン銀行の活動や「マイクロクレジット」について学び、その後は現地に泊まり込んで、借り手150名にインタビューするという活動に参加させていただきました。
グラミン銀行は、一般的な銀行ではなく、貧しい人たちの自立支援を第一に考えて事業を行っている団体です。「マイクロクレジット」は貧困層に向けての融資制度なのですが、借り手に合わせたローンや金利を適用し、融資金額や期間を決め、毎週個人が決めた返済額を返してもらうというシステム。
融資が決まると、まず最初の1週間で貯蓄のトレーニングを行います。得た収入のうち、どのくらいを貯蓄に回すかといった基本的な考え方を銀行が教えてくれるんです。
貧しい人たちは収入がわずかなため、その日に得た収入をすぐに使ってしまうんです。でも、バングラディッシュでは数年に一度は大洪水が起こるために家や土地を失ったり、飢饉で農業の収穫が見込めないことが多いので、蓄えがないとすぐに貧困に陥ってしまう。
そんなときに、貯蓄があれば、自分で生活を立て直すことができる。貯蓄はセーフティーネットの役割を果たしているんです。
そうですね。でも、私は英語が得意でなくて、頑張ってコミュニケーションがとれる程度だったので、このインターンシップは自分のレベルを遙かに上回るものだったんです。現地では、想像以上に英語が通じなくて、スタッフの英語もなまりがひどく、理解できない箇所がたくさんありました。
それでも、同じインターンシップのメンバーだったアメリカ人大学生に、ところどころ通訳してもらって英語の壁を乗り越えることができました。講義が終わったあとも、スタッフの方を質問攻めにして、ホテルに帰ってからも復習したり、気になる部分は翌日に質問したり。
でも、頑張ったおかげで、誰よりもグラミン銀行やソーシャルビジネスへの理解は深まったと思います。
いえ、最初はほんとうに大変だったんですが(笑)、「どんな状況でも諦めない!」という強い心で頑張りました。これは、今回のインターンシップで学んだ一番のことです。
ユヌス氏には数回お会いする機会があったのですが、「あなたの信念は何ですか?」と聞いたときの答えが、「Never give up!」。バングラディッシュは、約20年前まではアジアで最も貧しい国と言われていましたが、ユヌス氏は当初自分のポケットマネーで47人の貧しい人たちを救ったことが始まりで、そこからグラミン銀行を立ち上げたんです。これだけの組織に育つまでには、きっとさまざまな困難があったと思いますが、「何があっても、失敗しても決して諦めない」その信念があったからこそ、成し遂げることができたんだと思います。
自分で見て感じて、行動できること。グラミン銀行の取り組みについて、現地スタッフに率直に質問することができたのは貴重な経験です。「なぜ、貯蓄のトレーニングが必要なのか?経験がない人たちにどうやってそれを根付かせるのか?」など、知れば知るほど疑問は出てくるし、それについて質問したり議論することで本当に理解する領域まで進めたんじゃないかと思います。
でも、一番大きかったのは、実際に融資をうけている借り手の方に会うことができたこと。村に1週間泊まり込んで、借り手の方たちと銀行員とのミーティングに参加したり、借り手の家を訪れて取材したことで、グラミン銀行の存在価値を実感できた気がします。
最も印象的だったのは、借り手のほとんどが、自分の子どもを小中学校(義務教育)に通わせることができるようになったことです。そのように自立できるのは、銀行側の指導がしっかりしているから。借り手の人たちは、融資の際に指導を受けて、自分で融資を生かすプランを立てるんです。たとえば、5000円でミシンを買って、仕立て屋を営み、その収入でどのくらいの期間で返済するといったように、「小さな起業家」になるんです。
「生きる力」だと思います。どんな時でも諦めずに継続するとか、勇気を出して行動することかな。英語が通じにくいうえに、環境や価値観がまったく異なる国では、インターンシップはもちろん、生活自体もいろんな困難があって大変でした。でも、何とか乗り切っていくことで、たくさん自信がついたと思います。CUBEでよく聞く「できない理由を探す前に、どうすればできるようになるかを考える」という言葉の意味を実感しました。
そうですね。何十年さきになるかは分からないけど、起業してソーシャルビジネスのような無私の経営をしたいと思っています。そのためには、もっとさまざまな経験を積んでいこうと思います。
1つは、バングラディッシュの友だちをつくること。
日本人宿舎の従業員であるラヒムとは、親友といえるほど仲良くなりました。彼は村出身で高校しか卒業していないけれど、とても向上心があり、ベンガル語、英語、ヒンドゥー語、日本語を話します。彼がいつも言っていた「僕は貧しいけれど、心は豊かでありたい」という言葉はとても印象的でした。
それから、多くのインターンシップ生とも親しくなり、今でも交流があります。
2つめは、川で体を洗うこと。ラヒムの村で体験しました。衛生面での不安はありましたが、日本ではできないことを体験したかったのでチャレンジしました。現地の生活になじむことはとても楽しかったです。
3つめは、世界からの廃船が集まる船の解体所に行くこと。
時給300円で危険な船の解体作業を行っている現場を見ると、不当な労働に胸が苦しくなる気持ちと、でもこの仕事がなくなると路頭に迷う人が多く出ることも事実で、不思議な気持ちになりました。