平生教育では、「詰め込み教育」「画一教育」を排し、教育とは「各人の天賦の才を引き出すことが使命」としている。甲南大学は、この創設者平生釟三郎の理念を基に、現代社会の要請に応えるべく、教養と品格を備え、総合的マネジメント能力を有し、社会に貢献できる人材の育成を目指す学部としてマネジメント創造学部を新たに設立することとした。
総合的マネジメント能力とは、個々人が、自らの所属する組織、地域社会あるいは日常的生活の中で、様々な問題に直面しつつ社会を生き抜くために必要となる、問題の本質を見抜き、個人あるいはチームとしてその問題解決に向けた適切なアクションを実行し、やり抜く力であり、複雑化する諸問題に怯まず立ち向かうことのできる汎用性の高い力、さらには自分自身を管理、成長させることをも含む総合的な能力を意味する。
本学部・学科は、導入基礎教育とリベラル教育を重視し、少人数によるプロジェクト型グループ学習を中心に据え、「自ら学ぶ力」「共に学ぶ力」「自ら考え行動する力」を育成し、経済学・経営学を基礎とした専門教育による総合的マネジメント能力の育成を目的とする。
また、経済学と経営学を本学部・学科の中心的な学問分野としつつ、経済・経営の現実問題に対する取り組みにおいては、経済・経営の両分野のみならず、政治・法律あるいは歴史・文化を含めた、複合的かつ立体的に知識・思考を深めることが重要と考え、経済・経営の両分野で、特に理論と実践との係わりを重視した調査研究、問題解決に取り組む。さらに、国際的な諸問題や教育方法に関しても、実社会との係わりを重視した調査研究、問題解決を行う。
CUBEでは、独自の教育理念に基づいた効果的な授業が実現できる様、カリキュラムや授業方法あるいは学部の運営に関して様々な工夫、ルールが定められている。
本学部の教育課程等の理解と2年次以降の専門科目への基礎教育を目的とした「導入基礎科目」、幅広い教養と品格の育成を目的とした「リベラル教育科目」、経済学・経営学をベースに理論と実践を融合し、より実践的で創造的な学習を目的とした「実践・創造科目」、テーマや目的に応じたグループ学習による総合的マネジメント能力の育成を目的とし、テーマに沿ったレポートやプレゼンテーション等の最終作品を作り上げる演習形式の「プロジェクト科目」、プロジェクト科目で必要となる知識やスキルの修得を目的とした「ワークショップ科目」によって構成されている。
本学部・学科の教育課程は、上記「プロジェクト科目」を中心として構成されている。1年次には「導入基礎科目」により、プロジェクト型学習への対応と基礎教育を学習し、2年次以降は「プロジェクト科目」と「フィールドワーク科目」を中心として、「実践・創造科目」「ワークショップ科目」で専門知識を学ぶ。また、「リベラル教育科目」を2年次以降各年次においてバランスよく学習する。海外留学、インターンシップ、ボランティア活動といったオフキャンパス・アクティビティにおいては、多様な社会経験を通じ学生の思考・視野を広げるあるいは社会性・国際性を培うことを目指している。
高校等大学入学以前の学習スタイルからプロジェクトを中心とした本学部・学科の学習スタイルに移行するため、1年次の導入教育が重要となる。第一に、言語的論理思考能力、数学的論理思考能力、コラボレーション能力、体育を重視し、大学における基本的な能力(ベーシックスキル)を身につけるための科目を1年次に配置している。
また、1年次配当の「基礎リテラシー」では、複数の教員が学生集団を共同で教育する(同じ教室で複数の教員が同時に参加し、異なる視点・専門から学生の指導・学生との議論に参加する)形式をとり、従来の大学における教育システムとは異なる教育環境の下で、教員も学生と共に自ら学び共に学ぶ教育を実践する。
CUBEでは、1年次生の履修科目は、ほぼ全てが必修科目であり、他大学と大きく異なり、「3分の1の欠席で不可」になることにより、1年生は毎日大学に来て授業に出席することになる。
また、英語科目を中心に、毎日のように宿題も出るので、仲間同士とあるいは各個人はCUBEに夜遅くまで残り、課題・宿題を済ませて帰宅する学生も多い。1年次の授業は少人数クラスが多く、グループワークやプレゼンテーションの機会が非常に多いのも、学部教育の特徴となっている。
多くの既存学部では、1年次に教養科目を配置し、2年次以降に専門科目を多く配置することが一般的である。CUBEでは学部教育の中心にプロジェクト科目やフィールドワーク科目を配置し、これらの科目における学びをより深めるため、その周辺にリベラル教育科目と実践・創造科目を配置している。
たとえば歴史教育においても、あるいはビジネスや政策の学習においても、単なる知識教育ではなく、問題の本質に迫るストーリー作りや構想力を重視するためのプロジェクトを中心としたカリキュラムを編成している。卒業必要単位数の約30%はプロジェクト科目(およびフィールドワーク)より修得する。
プロジェクトは従来型のゼミとは異なり、特定教員のプロジェクトを継続的に履修することもできるが(最大2つまで)、様々な教員のプロジェクトも履修でき、また、複数のプロジェクトを同時に履修することも可能である。
さらに、プロジェクトを有効に実施するために必要な知識やスキルは、リベラル教育科目、実践・創造科目及びワークショップ科目において修得する。
リベラル教育として、世界の歴史・文化から芸術そしてサイエンスに至る深みのある教養科目を置く。たとえば、音楽等芸術系の講義においては、演奏者や指揮者をゲストスピーカーとして招くなどの講義を実施し、より実践的な側面を取り込むなどの工夫を凝らす。
たとえば、経済学においても、サイエンスとアーツの側面があることから、リベラルアーツ科目の中に、人や社会、歴史文化との係わりを重視したアーツとしての経済学・経営学の講義を配置する。これらの教育を通じ、総合的教養教育を実践する。
企業・産業系の科目、公共経営・政策系科目、並びにグローバルスタディーズ系科目からなる。どの科目に関しても、実ビジネスや現実社会との係わりを、意識した講義内容となっている。2年次以上の選択科目として、16単位以上を履修する。
たとえば、「経営戦略の手法Ⅰ」では、会計情報を用いた経営管理等を中心として知識・スキルを学ぶが、授業で実務家を招き具体的ケースを議論する等より実践的な教育を行う。「企業と経営II」では、業界ごとの経営手法や企業戦略、最新の業界の状況を踏まえ、知識とスキルを習得し、加えて業界の第一線で活躍する経営者や専門家等とのディスカッションを通じて、より実践的な教育を行う。
また、「産業と経済III」では、情報通信やエネルギー産業あるいは鉄道や航空産業といった政府規制産業を中心に、今起こっている市場環境変化、政府の政策並びに企業戦略について広く議論する。このように、CUBEの各種授業では、現実社会と知識・理論との融合を基礎としており、両社のバランスを取り、現実社会をより深く理解することを授業の目的としている。
たとえば、学者だけでは現実問題のすべてを語り切れないことは自明のことなので、各授業では外部のゲストスピーカーが招聘できるよう手当てしており(各科目で上限10万円で複数のゲスト招聘可能)、テーマに関連する専門家、実務家、あるいは政府関係者等多様なゲストを招聘し、授業において質疑、議論が進行できるよう環境を整備している。
他の学部と異なり、実践・創造科目の科目名がわかりにくいのは、学問の視点から現実問題にアプローチするのではなく、学問的知識・思考を道具として現実問題に取り組むことを意識したからである。