僕はサッカーの選手だったから、サッカーの話に例えるけれど。
いいプレーヤーになれる人は、「こんなシュートが打ちたい。こんなドリブルができるようになりたい」と明確なイメージを持っているんですよ。
なりたい自分のイメージを持っていないと、夢に近づくことは難しいし、努力も続けられないからね。
まず、自分の夢や未来を明確に思い描くこと、ビジョンを持つことです。それができたら、具体的な目標を設定して、後はそれを必死に追い求める。そうすれば、大抵のことはできるようになります。
夢を実現できるかできないか。それは「能力」の差というより「情熱」の差なんですよ。何かを達成するためには、「能力」×「情熱」が必要なんだけれど、原動力となるのは「情熱」。「能力」は、やり方次第で大きく伸ばすことができる。
「自分にはできない、能力がない」というのは、「努力を継続したくない」という脳の言い訳。人間の脳は、言い訳の天才なんです(笑)。
多くの人はやる前に諦めていると思いますね。やり遂げることが難しい、自分にはできないと決めつけているからできない。
僕はいつも学生に言っているんだけど、「難しい」はやらない理由にならない。やるかやらないかを判断する時は、やる価値があるかどうかで決めるべきですね。
たとえば昨年、N.Y.のコロンビア大学の研究機関でインターンシップの話があったんです。ここは情報通信技術の研究を行っているところで、世界でもトップレベル。そこにCUBEから数名の学生が行ったんですが、一人はカナダ留学を控えていた学生で、それまで英語圏の国に行ったことがなかった。順序からいえば、留学経験を終えたあとに参加する方が一般的だけれど、こんなチャンスを逃すともう回ってこない。
確かに、彼女は行ってからものすごく苦労したんだけれど、多くのことを学びました。数百ページもの英語の資料を渡されて、それを読まないと仕事に取りかかれないという、日本では経験できない困難な状況に置かれたことで、自分がどう対処すべきかを考えて行動した。その後のカナダ留学でも得るものは大きかったようです。
自分の未来のために、今努力することに意味を見いだすことができるか。そして、努力する自分の未来を信じることができるか、が大切だと思いますね。
たとえば、学生には「二兎を追え」と言っています。ことわざで「二兎を追う者は一兎をも得ず」というけれど、実は二兎を追う方が効率はいいんです。
たとえば、今日は午後サッカーの練習があるから、午前中のうちに宿題を片付けようとかね。ある程度忙しい方が、人は効率を考えたり工夫するようになる。時間もお金も、少し足りない方が大事に使うようになるものです。
それに、大人になると、多くのことを同時に片付けないといけない。だから、優先順位をつける判断力やバランス感覚を磨いておくと、社会に出たときに自分を助けてくれます。
あとは、「行動すること」が大切です。「自分はこんなことできるだろうか?」と冷静に考え過ぎたら、「やっぱり無理、やめておこう」となるでしょ。考える前に行動すること、あるいは走りながら考えることも大事。考えすぎると、行動が止まってしまいます。
失敗がこわいのは、他人の目で物事を見ているから。物事はプロセスの方が大切なんだけど、他人には結果しか見えない。要は、何を考え行動し、そのプロセスで何を学んだかです。
たとえできなかったとしても、そこから人は学べる。プロセスを見ることができるのは自分だけですから、自分を信じる力が必要です。
僕の話をすると、若い頃はプロのサッカー選手になるのが夢で、そのために誰よりも努力しました。なれるかどうか分からないけれど、「なりたい」と強く思い、「なれる」と信じて、大学生の時は1年間ドイツ留学もしたし、夢の実現に向かって毎日毎日練習しました。
結果的に、プロの選手にはなれなかったけど、うまくなるためにさまざまな工夫をしたこと。試合に勝つために苦しい練習を乗り越えたこと。自分の未来の可能性を見つけるためにドイツで1人留学生活を送ったこと。そのすべてが無駄ではなかったと思います。
目標に到達することより、そのために努力を続けたプロセスから、人は多くのこと学べる。人は、自分の経験からしか学べないんです。
いろんな経験をしていますよ。インターンシップでいえば「社長カバン持ち体験」とか、上海の学生との交流会とか。
ある学生は、先日バングラディッシュのユヌス氏※のところへ、インターンシップに行ってきたんですが、彼女も行動力があります。
講演会のため来日していたユヌス氏が席を外したときに自分から声をかけて、それがきっかけでバングラディッシュに行くチャンスを得ることができた。
もちろん、現地では英語が通用しなかったり、いろいろな困難があったのだけれど(笑)、彼女の人生はそこから大きく変わり始めました。
そうですね。でも心も脳も、筋肉と同じで鍛えることができるんですよ。
たとえば、明日フルマラソンを走れと言われたら、ほとんどの人が無理だけど、半年後に走れた人は100万円あげると言われたら、みんな頑張ろうと思うでしょ。そのために、毎日少しずつ練習して距離を伸ばしたり、いいコーチを見つけたりするはず。
自分にインセンティブを与えたり、小さな努力を毎日続けていくことで、精神も鍛えられるんです。自分はできるんだと信じることです。
今の高校生たちと話をしていて思うのは、みんな自信を手に入れたいんです。偏差値のモノサシで判断されて、他人の評価を気にして、自信をなくしている。
そんなことよりも、もっと大切なことがたくさんある。まだまだ自分で気付いていない可能性やいいところがたくさんあることに早く気付くべきです。
大丈夫、やれますよ。
いい環境でいいコーチに出会って、自分の目標が明確になれば、人は自分の未来を変えることができるんです。
※ユヌス氏
ソーシャルビジネスの第一人者で、バングラディッシュのグラミン銀行の創始者。ノーベル平和賞の受賞者。