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CUBE創設を支えた人たち

一歩前に出られる。一生懸命頑張れる。CUBEの文化を大切にしてほしい。大学職員:稲岡 猛CUBE在任期間:2008年6月~2010年5月

CUBE創設プロジェクトは、まさに新しい風だった。

Q.
開設準備のときは入試担当。高校の先生の反応はどのようなものでしたか?
稲岡

正直なところ、最初の反応は良くありませんでした。進路指導や担任の先生が興味あるのは、やはり実績の部分。就職はどうか、OB・OG訪問はどうするのかと聞かれました。

当然ながら実績と言えるものはまだありませんから、こちらが伝えられるのはCUBEのポリシーとか夢の部分。佐藤を見習って、パッションで勝負するしかありませんでした。ただ、不思議なものでこちらがワクワクしながら話していると、相手にもそのワクワクが伝わっていくのですね。
そのうちに「じゃ、生徒にも話してみようか」と言ってくださったりと、徐々に反応が返ってくるようになりました。

Q.
高校の先生方は、どんな部分に共感されたのでしょう?
稲岡

たとえば、ガラス張りの教室。CUBEの教室はほとんどがガラス張りですが、これは先生にとっても緊張感があるそうです。教員同士で良い授業を見学するという活動もありますが、基本的には1つの教室に1人の先生が普通です。
そんななかで、同じ立場である教員から「見られている」という緊張感は、授業のクオリティを上げることにもつながります。
さらに、1年次の基礎リテラシー授業では、1年生を4クラスに分け、各クラスでチームティーチングという形で、複数教員が同じ教室で協力しながら、クラス単位の授業を行っています。これもCUBEらしい新しい教育スタイルです。

Q.
なるほど。ガラス張りの意味は、学生のためだけではなかったのですね。
稲岡

もちろん、学生にとっても意味は大きいです。夜遅くまで頑張っている時も誰かに見守られている感覚があったり、そんな友だちの様子に刺激をうけて自分も頑張ろうと思えたり。
それは、教員にとっても同じことなのです。活気のある授業とそうでない授業というのはすぐに分かるものですから、もっと頑張ろうという気持ちが生まれるのだと思います。
そういった話は高校の先生方にも実感していただけたので、CUBEの授業スタイルに興味が湧いたようでした。

Q.
同じ大人という点で、保護者の反応はいかがでしたか?
稲岡

保護者の方々は、一般的な大学の授業スタイルや社会で必要とされる能力について知っているので、CUBEの取り組みの新しさも感じていただけました。たとえば、社会に出たら議論できる力って必要だよねとか、英語がもっと話せたら良かったのにとか。

それでも、なかには「就職のことを考えたら、実績のある既存学部が有利だろう」という意見もあったし、CUBEファンの受験生が「説得してください」と親御さんを連れて来られたこともありました。 反応はさまざまでしたが、CUBEの教育スタイルが多くの学生や保護者に受け入れられたのは、めざしていた方向が求められていたことだからだと思っています。

やらなければならない時があることを知った。

Q.
授業のやり方もキャンパスも、何もかもが新しいCUBE。仕組み作りも大変だったのでは?
稲岡

そうですね。でも、それを何とか形にしていくプロセスは、自分にとってものすごく勉強になりました。たとえば、学内での交渉事もそのひとつ。自分たちは「こんなにいいアイデアなのに」と思っていても、「どうしてもやりたいんです」と訴えるだけでは通らないですよね。組織のなかで、どうやって他部署の人たちも巻き込んでいくか。
どの部署にもそれぞれの正義がある訳ですから、そこをいかに調整していくか、ということを学ばせてもらいました。

Q.
CUBEで学んだ交渉力は今も活かされていますか?
稲岡

今は人事課に配属されていますが、現場を知っているということは強みになります。要望を受け入れられない時でも、断る際に「私も経験したことがあるから、言っていることはわかるよ。でもね」と話し、理解を得られたことがありました。

Q.
CUBEでのチャレンジは、自分にとっても成長につながったと?
稲岡

非常にありがたい経験をさせてもらったと思っています。特に、佐藤と石野はものすごい突進力がありますから(笑)、多くを学ばせてもらいました。正直いうと、私はもう少し順序立てて進めたいタイプでしたが、事を成すためにはそれではだめな時もあるんだなと。どんなふうに進めていても心配事は尽きないですし、後に引けない場面にならないと動けないこともあります。

それに、上司が腹をくくっているという雰囲気。どんなことが起こっても骨は拾ってやる、だから一緒にやるぞ、という信頼関係があったからこそできたのだと思います。
でも何より嬉しいのは、それが最終的には形になって、学生のためになっていくことでした。

学生が目に見えて育っていく。そこに立ち会えたことに感謝している。

Q.
学生の成長をみていて、どう感じますか?
稲岡

CUBEでは本当に多くの体験ができるので、学生たちはそれをしっかりと吸収してくれています。
英語の授業も、ただ話せるのではなく何を語るかが大切。極端にいえば、片言の英語であっても日本の文化や歴史について語れるほうが外国人にとっては魅力的かもしれません。もちろん、CUBE生たちは英語力も身につけていますが、語れる何かをどれだけたくさん蓄積できるかという点で誇れると思います。

一回生の最後に、プレゼン大会を勝ち抜いたグループは学部長主催のディナーに招待されるというプログラムがあったのですが、これはご褒美であると同時に貴重な学びでもあるんです。だから、お皿の回りにできるだけ多くのシルバーが並んでいるコースを選び、ホテルの方にテーブルマナーのレクチャーをお願いしました。学生たちは、正装し、いつもは接することのない理事長や学外の方々と会話をしながら、晩餐会の経験をすることができました。

Q.
CUBEには積極的な学生が多いようです。
稲岡

確かにそうですね(笑)。社会で活躍されている方によく来校いただいたのですが、臆せず質問できる学生がたくさんいました。
一歩前に出られる、リスクを取れるというのは大切なこと。社会に出れば、守るべきものが増えてなかなか言いたいことも言えなくなる。学生のうちはまだ許される部分もありますから、学生の時から一歩前に出られなかったらだめだと思うんです。仕事をするなかで、何か勝負をかけないといけない時。そんな時に前に出る勇気があるかどうかは大切だと思います。

Q.
教職員の方々と接していると、学生に対する気持ちの深さを感じますね。
稲岡

大抵は怒ったり注意したり、ということの方が多かったような。
それでも、人事異動となりCUBEでの勤務最後の日には学生たちがサプライズパーティを開いてくれたのです。大きな模造紙に寄せ書きしてくれて、5階の大きなプロジェクターにビデオメッセージを流してくれて・・・。その時にもらったプレゼントは今でも大切な宝物。そんな粋なことをしてもらうと嬉しいですよね。

CUBEの個性は、甲南学園のエッセンスになっていくと思う。

Q.
CUBEの誕生をどう捉えていますか?
稲岡
CUBEのロゴマークの下には「Hirao School of Management」という言葉が入っていますが、それは甲南学園の創立者である、平生釟三郎先生のことです。平生先生のめざす教育は、少人数制であったり、学生一人ひとりが才能をもっているのだから知識を詰め込むのではなく、個性を引き出す教育をしようとか、人格を育てることが大切だというもの。
CUBE誕生は、そんな甲南学園の原点に、もう一度戻ろうという意図もありました。もちろん、新しい取り組みの部分はたくさんありますが、原点はそこにあるのかなと。
Q.
なるほど。CUBEは甲南学園のめざす教育の再発見でもあると。
稲岡
甲南大学は、関西の総合大学のなかでは規模が小さい方です。そういう意味では、創立当初の少人数で個性をのばすというルーツはずっと大切にしてきたと思います。
CUBEという新しい学部を増設したけど、甲南大学全体の入学定員数は増えていない。新しい学部ができると、入学定員が増えるのが一般的ですが、それをしないのも甲南の個性だと思います。
Q.
CUBEのこれからが楽しみですね。
稲岡
そうですね。これは甲南大学全体の話ですが、外部の方に聞くと、甲南の卒業生は人の気持ちをくむことができるとか、協調性があるというイメージのようです。CUBEの学生には、そこに個性豊かなという形容詞が加わる。CUBE生のそんな存在感が、甲南大学にとってもエッセンスになってくれたらと思います。
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