HOME > CUBE創設を支えた人たち > 緒方 正樹
正直、最初はありましたね。古株の管理職ですし、どちらかといえば、安全に行きたいタイプでしたから(笑)。ただ、CUBEの開設準備室に来てからは、考え方ががらっと変わりました。
以前なら「危なそうだからもう少し検討しよう」とストップをかけていたのが、「まぁ、冒険してみようか」と。
その度に、周囲からはいろいろな反対意見も出ましたが、「学生にとって一番ベストな答えは何か」を判断基準にすれば、最終的には答えはひとつしかありませんよね。それに、大学本部と離れた場所にあるので求められる機能も違うし、授業の進め方もまったく異なるので、既存の仕組みではフォローできないのも当然なことです。
学生サポートの面でいうと、ほとんどの業務をここで完結できるような仕組みが必要でした。入試対応や学生サポート、就職活動のフォローなど。僕たちとしては、本部に劣らないようなワンストップサービスをしようと。そのためのルールづくりを一つひとつ作っていったのです。
たとえば、昼休みの時間が決められていないのもひとつ。広さという物理的な問題もありましたが、全員が同じ時間帯に昼食をとることがほんとうに必要なのかと。各自がカリキュラムに合わせて都合のよい時間に食事をとればいい訳で、食べる場所も空いている教室は使えばいいし、外の景色を眺められるカウンタースペースもある。そんなふうに、一つひとつのことを本当に必要なのか?学生にとって一番よい方法は何か?をみんなが真剣に考えていました。
そうですね。そういった基本的な部分は、佐藤学部長と石野さんが中心となって作り上げたものです。僕が参加したのは、準備室が立ちあがって一年ほど経った頃でしたから、最初のゼロからのスタートはさらに大変な道のりだったと思います。
新しいルールといえば、象徴的な例は先生の呼び方ですね。通常の大学なら、職員は「○○先生」と呼びますが、そうでなくて「○○さん」と呼ぶようにと。佐藤学部長に対しても、僕は今でも「佐藤さん」と呼びます。これは、一般的には絶対にあり得ないことですよ。
学生が夜の11時までキャンパスを使っていい、というルールができたことも画期的でした。当初は9時までだったのですが、学生から「もっと勉強したい」「宿題をする場所がほしい」という声が上がって、終電に間に合う11時まで延長することになりました。
当然ながら反対意見もありましたが、学生が勉強したいと言っているのですから、学校としてできるだけ要望に応えてあげようとなったのです。
その代わりに、セキュリティ面の仕組みはしっかりとしています。夜になると外からの入館はできないとか、ガラス張りの部屋しか使えないとか、安全面を考えていろいろな調整を行いました。そういった面では、本部事務室にもいろいろと協力してもらいました。
甲南大学には、Student First(学生第一主義)という考え方があります。これは、創立者である平生釟三郎の教育精神の一つで、迷ったときには学生にとって一番よい方法を考えようと。CUBE立ち上げの時にも、その精神がベースになっていたと思います。
それから、佐藤学部長が掲げている「教育で、日本を変えたい。学生たちの未来を変えたい」という強い想いがあって、私たちも同じ方向をむいて走っていました。
きっと、学生たちにもそんな空気は伝わっていたでしょうし、特に一期生たちはルールづくりにも積極的に参加してくれました。
そうですね、一期生たちが一緒に盛り上げてくれた。受験のときから、CUBEのコンセプトに共感して入学してくれた学生もいました。学部長のいう「CUBEは魔法学校です」という言葉に惹かれて、本当に魔法にかかったみたいにね。
僕自身、ずっと大学職員として勤めてきましたが、学生とここまで身近に接触したのはCUBEが初めてだったのです。通常であれば、事務的な手続きで言葉を交わす程度でしょうが、ここではいろいろな場面で濃い人間関係が存在します。僕はいま東京で勤務していますが、一期生で東京に就職した学生たちとは今でもお酒を飲みにいく間柄。それが何よりも嬉しいですね。
佐藤学部長がね、高校生の前でスピーチをするたびに、CUBEファンが増えていくんですよ。
「CUBEは魔法学校です」とかどんどん言っちゃう(笑)。でも、「未来は自分で変えられるんだ」という言葉に、高校生たちは目を輝かせてましたね。特に、お母さん方にすごく受けていました。
普通はないと思います。でもね、プレゼンが上手い佐藤さんでも、笑わそうとしてすべるときもあるんですよ。そんな時に慌てた様子を後ろから見るのも、ちょっと楽しかったですよ(笑)。
しかし、佐藤さんのすごいところは、そこからどんどん工夫して、さらに磨きがかかっていくところ。聞いてみると、スピーチの構成を見直して、自分で話す練習をしていると言うんです。落語の構成を研究したりしてね。僕には絶対にマネできない、すごい人だなと感心しました。
それだけ成し遂げたいという想いが強いのでしょうね。
高校訪問だけでも、佐藤さんは数ヵ月の間に70校くらい訪問されていました。普通の先生は嫌がるんです。高校側にとっては、夏休みの大切な時期ということもあり、丁寧に対応してもらえないケースが多いので、大学の先生はあまり行きたがらないんです。
しかし、CUBEの一番は、研究ではなく教育ですから。大学教員こそ高校の先生とじっくり話し合うべきだと思います。学生を受け継ぐという意味でも、高校教育の現場に行って、そこの課題をちゃんと理解しておく方がいいのです。