「彼はまだ学生なんだけど、今日は僕と一日行動をともにしているんですよ」。
中西社長が英語でそう言うと、海外から来られたお客さまは、ニッコリ笑って僕にも名刺を差し出してくれた。中国系オーストラリア人の彼は、笑顔の素敵なエリートビジネスマンといった雰囲気。
僕は、名刺交換なんて初めての経験だし、ちょっとドキドキしながらも自分の名前を言って、ぎこちなく受け取る。「Nice to meet you」なんだか公式に認められたような気がして嬉しくなった。きっと、この感動は忘れられないだろう。
その方は、初めて来社されたお客さまで、これからディーエスピーリサーチによる商品プレゼンテーションを受けるのだ。最初は、コーヒーを飲みながら社長と軽いジョークをかわしていたが、いよいよ商談となると場の空気は一変して引き締まる。社長の表情も、スイッチが入ったように切り替わり、僕は第一線の現場にいることに鳥肌がたった。
午前中の電話会議もそうだったが、会話のほとんどが英語である。しかも、専門用語がガンガン飛び交っているので、話の内容がさっぱりつかめない!ただひとつ確信したのは、社会で求められる英語のレベルはこういうものだ、ということ。僕は英語には多少自信があったのだが、自分の能力がまだまだであることを痛感させられた。
そして、社内会議中にこんな発見もあった。女性スタッフの方がみんなに2杯目のお茶を出してくれた時のこと。お茶を配り終えて、代わりに飲み終わったカップをお盆に乗せた彼女は、手がふさがっていてドアを開けることができなかった。
僕は近くにいながら、目の前のことで精一杯だったのか「開けてあげて」と言われて初めて気がついた。実務能力だけでなく、こういった気配り精神も大切であることを学ばせていただいた。
社長の目まぐるしいスケジュールに同行しながら、ふと思った。
僕は、せっかく多くのことを学べる環境にあるのに、チャンスを逃していたんじゃないか・・・?CUBEでは、授業以外にも、勉強会や外部の人と接触するセミナーがたくさんある。目の前にチャンスが転がっているのに、手の間からこぼしていたんじゃないか・・・。
スタッフの方からも、「社会に出てからも勉強はできるけれど、本気で勉強に打ち込めるのは今だけだよ」と言われた。
ランチタイムに、中西社長から「将来はどんな道に進みたいの?」と聞かれた。
僕は、父が会社を経営していること、将来的には会社を継ぐことができればいいと思うが、そのためには、まず社会に出て企業のあり方や組織について多くのことを学ばなければいけないと考えていると答えた。そして、今興味があるのは環境負荷が少ないエネルギーとして注目される太陽光発電ビジネスであると続けた。
中西社長は、「そうだね。十合君のいうとおり、企業に勤めて組織を知ることはとても大切だ。ひとつアドバイスをするなら、東京に本社を置き、一部上場している企業に勤めなさい。そこで少なくとも3年間勤めて、それからお父様の会社を継ぐかどうか判断するといいよ。」とアドバイスしてくださった。とてもお忙しい方なのに、僕の話に耳を傾けてくださったことにとても感動した。
今回のカバンもち体験ではいっぱい恥をかいたが、そのおかげで新しいことに挑戦する勇気がついた。これをきっかけに、いろいろなことに一歩踏み出せそうだ。