「それじゃ、僕をNTT西日本の部長だと思って話してみて」。佐藤学部長の前で、私たちは予行演習をすることになった。
私たち2人が考えた企画とは、NTT西日本が地方自治体に光ファイバー敷設を提案するにあたり、それによって得られるメリット(配信コンテンツ)案。自治体への提案は、すでに行われているのだけれど、今回のインターンシップの題材にしていただいたのだ。
その自治体とは、日本海側にある小さな島。面積33.5平方キロに約2500人が住んでいる。島内には、十分な医療施設が整っていないなどいくつかの課題を把握したうえで、私たちは医療や教育、娯楽など4つの提案を考えた。
「ストーリーになってないね。他人事みたいに聞こえるなぁ」学部長のコメントは厳しかった。
「映画配信コンテンツを提案します。理由は映画館がないから」では当たり前。プレゼンテーションするなら「ターゲットが誰で、こんな背景があるからこんなコンテンツが必要です」といったストーリーを展開することで説得力が増す。そのためには、島についてもっと調査しないといけないと言われた。
確かに内容が浅かったことを反省して、もっと深く調べてみると、いろいろなことが分かってきた。特に私が力を入れたのは、産婦人科がないこの島に、妊婦さんの定期検診を遠隔医療で行うという提案。
身近で出産を経験した人に聞いてみると、定期検診に行くときは、家族の車なら安心だけれど、公共交通機関だとかなり不安になるとのこと。それが、船で本土まで往復3時間(1日5便)ならなおさらだろうし、船酔いもするかもしれない。交通費も片道で約1000円と高くつく。
本土の産婦人科と提携して遠隔医療を実現できれば、コストも1人あたり約5万円は削減できる。それに、出産は本土の病院になるので、離れた島の家族に赤ちゃんの映像を送ることもできる。この島では年に10人くらいの赤ちゃんが生まれているが、遠隔医療が定着すれば妊婦さんの負担も減って、少子化対策にも貢献できるかもしれない。
ようやくまとまった企画提案をもって、いよいよ出社する日がやってきた。
私はもともと人前で話すのがとても苦手。緊張して声が震えながらも、部長や課長、社員の方5~6人の前で発表した。
部長は私たちのプレゼンをじっと聞いておられて、「お客さん扱いではなく、うちの新入社員のつもりでアドバイスしますよ」と話し出された。まず、「アイデアはすごくいい。提案の中に数字を使うのも具体的で分かりやすい」と褒められて嬉しかった。1週間悩んだ甲斐があった!
指摘されたのは、その提案を実施することで、関係者のメリット・デメリットは何か?遠隔医療でコスト削減できるといっても、光ファイバーを導入するコストを考えると本当に安くなるのか?企画を実現するためには何が必要かを深く考えることが必要ということだった。
社員と同じように厳しく評価していただいたこと、そして、会社という組織のなかで、議題がどのように検討され決められていくのかを見られたことは、とても貴重な経験だった。
プレゼンの時も、その後のTV会議でもそうだったが、物ごとをいろいろな角度から客観的に見ることの重要性を実感した。社員の方からも「提案の時は、自分の意見を話すのではなく、いろいろな視点から検討した結果、この方法がいいと伝えることが大切」と教えていただいたし、それは佐藤学部長の考え方にも通じると思った。
改めて考え直すと、私はほんとうに島の人の目線になりきれていただろうか?妊婦さんや家族の気持ちになろうと一生懸命に考えたつもりだが、どこかで「自分がやりたいから」という気持ちも加わっていたかもしれない。
今後、企画提案を考える際には、どういった視点に立つべきなのかを見失わないようにしたい。