2024年1月4日 木曜日 5限の芸術の授業で卒業生で現在は書道家として活動されている鶴原 さやかさんがゲストスピーカーとして来館される事になりました。
書道家として活動することを決意された経緯を、卒業時に杉本先生と対談形式でインタビューをさせていただきましたので、ぜひご覧ください!!
鶴原さやかさん(マネジメント創造学部4年生)×杉本喜美子学部長 対談インタビュー
甲南大学在籍中に書道部『甲墨会』で活動され、コロナ禍での自身の書道作品発信活動(SNS)がフランスのジャパンエキスポ主催者の目に留まり、日本を代表して書道作品を出展販売。それをきっかけに、卒業後は書道家として活動されることを選ばれた鶴原さん。甲南大学からは「同窓会長賞」も授与されています。
「書道」という伝統文化ながら、台紙や背景の色を工夫されるなど、現代ならではの感性を生かして、まっすぐに書に向き合われる姿勢の彼女に、『書』を職業にするなかで大切にしていきたいこと、その楽しみや難しさ、今後の意気込みなどを、学部長との対談形式でお伺いしました。
プロフェッショナルとしての作品の軸
杉本喜美子学部長【以下、杉本】:(書道について書かれた)卒業論文を拝見しました。主題にもなっていたけれど、「伝統的な字を大切にする書道」と、「それをどこまで崩せるのか、芸術や絵画に近いような書道」と、その間をどう探っていくのか、ご本人も悩みながら創作活動をされている様子がとても良く伝わってきました。いつ頃からそのような方向性を考え始めたのか、今後プロフェッショナルとして、どのあたりに自分の軸を置いていくのか、そのあたりをお聞きしたいです。
鶴原さやかさん【以下、鶴原】:そうなんです。(書道作品に)色を使うようになったのが大学1年生の時なのですが、始めた矢先、大学2年生になるころにコロナが流行り始めて、家で過ごすことが増えたので、本格的に(SNSへの作品UPを)始めたんです。やっていく中でSNS上でいろんな繋がりができてきて、さまざまな作品を目にしたのですが、「この人は(書道の)基本をちゃんと勉強してきた人だな」とか、「この人は筆文字よりの人だな」とか・・・
杉本:それは字の形を見るだけでわかる?
鶴原:わかります。やっちゃいけないというか、「これは書道をやっている人はあまり書かない線だな」というのはなんとなくあったりして。だから、そうはならないようにいたいなというのは常にあります。でも、完全に『書道作品』と言おうと思うとやっぱり、白地に黒い墨できちんと文字として(表現する)ということになっちゃうので。はっきりとは読めなくても、ちょっと考えれば読めるかなくらいの崩し具合で、私は頑張りたいなと思って。
杉本:なるほど。最後まで、あくまでも「文字を書く」ということからはブレないと。
鶴原:はい。そこはブレないようにしたいなと思います。
「映え」と長期的な視点との狭間で
杉本:字を本当に大切にされている。今の時代、「映える」ことを中心に、どうしても短期的な効果を狙ってしまいがちでしょう。
鶴原:それはありますね。
杉本:CUBE(マネジメント創造学部)の子たちも実践的な学びを意識してやっているんだけど、その実践的な学びをどうやって表現するかといった時に、「どうアピールしたら短期的に人に伝えられるか」考えるのも大事なことだけど、「それを長期的に見た時に有効かどうか」を考える視点ってとても大切だと思っていて。
鶴原:確かにそう思います。
杉本:大学の学びにとって長期的な視点というと、一つ一つの学問を少しずつ真剣に学ぶことの延長上にその答えがあるような気が、私自身はしていて。そこを軽視せずにいることが大事なんだろうと思いつつ、なかなか授業の中で深く時間をとって伝えることはできないけど、それが大事とわかっていていろんな準備をする子と、大事かどうかに重きを置かず、とりあえず進めてしまう子がいる。そういったことと似た考え方なのかなと思うのだけど、どう思う?
鶴原:SNSのはじめの目標として、「作品を見てもらうフォロワーの数を増やす」というものがあったんですけど、急に(フォロワーが)増える方は、流行っている楽曲をバックに使ったり、とっつきやすい数秒の動画をポンポンとあげていったり。それも人を集めるにはいい方法なんですけど、自分の書いているものをずっと好きでいてくれる人を得るには、私は好まない方法で。人を集めるにしても、自分のオリジナルの部分で勝負していきたいなと思います。
杉本:そういう意味でも、今まで長年いろんな方が蓄積されてきた「ここは外してはいけない」ということを小さいころから学んでいらっしゃって、それをわかったうえで、どこまで崩していけるか、プロ意識の中で自分と葛藤しているんだろうなということを感じて。その考え方そのものが大学での学びの考え方とも似ているし、書に対してすごく真摯に向き合っている点が、すごく好感を持てるなと思って見ていました。
鶴原:ありがとうございます。
字から伝わる人が人柄や想い
杉本:私は書道をしたことがないから専門的なことはわからないけれど、学生時代の同級生から年賀状をもらった時に、その字を見ただけで、ノートを貸し借りしていたり、試験前の必死になって勉強していた気持ちだったり、そういう当時のことを一気に思い出す感覚になることがあって。ほかにも、共同研究しているフランス人の方と論文を書く中で、すごく几帳面に、びっくりするくらいたくさんのメモを書かれるのだけど。「字を書く」ということ一つとっても、そこから人柄が見えてくるものがあるような気がして。鶴原さんにしても、(文字を)どう崩そうか、「プロとしての崩し方」というだけではなく、それにどう向き合って表現しているか、人柄までわかる気がする。私は、(鶴原さんの作品の中では)『弾』という字がすごく好きで。
鶴原:すごく反応がよかった作品の一つです。
杉本:今までの作品の中で、自分自身が一番気に入っているものとかってありますか。
鶴原:うーん・・・自分が気に入ったものだけをあげようと思っているので。
杉本:UPされているものは、すでに気に入っているものなのですね。
鶴原:そうですね。特徴でいうと、太いところと細いところとのメリハリがしっかりしていることだったり、点は細いところにつけるのが好きだなとか、鋭さもある方が私は好きです。
杉本:(文字から人柄を想像するとしたら)スマートで賢い大人の女性の方が書いているようなイメージ。
鶴原:初めてフランスのジャパンエキスポ担当者とお話しした時に、学生だとは思わなかったと言われて。30代くらいの女性かと。歳の離れた兄弟がいることや、書道界でも年上の方と接する機会が多いこともあるかもしれません。
フランスのショーウィンドウに書道用具が
杉本:フランス人ってすごく日本の文化に積極的でしょう。
鶴原:はい。販売ブース以外でもフリーで書を楽しめるコーナーを設けたんですけど、現地の方にとってはすごく貴重な機会だったようで。向こうに行って一番嬉しかったのが、画材屋さんのショーウィンドウに書道用具が飾られていたんです。世界の中でいろんな文化がある中で、お店にとって大切なショーウィンドウに書道用具が飾られているなんて、すごく嬉しいことだな、行ってよかったなと感じました。
杉本:日本の中では、知られすぎて少し古い文化というイメージがまずあるけど、一周回ってフランス人の方は非常に興味を持っているし、(フランス人にとって)いろんな教養を身に着けることってかっこいいのよね。教養の一環として、自分たちの文化圏じゃない国の文化を学ぶことは、人生を潤わせることだと思っているみたい。
鶴原:うわべの興味だけじゃなく、深く知ろうとしてくれる姿勢をすごく感じました。
杉本:逆輸入で入ってくる文化もすごく多いから、そちらの方に積極的に売りに出ることで、今後、日本の新しい年代の人にも興味を持ってもらえるんじゃないかな。
お堅い書道のイメージを前向きに変えたい
鶴原:書道って日本文化として海外では高い評価を得ているんですけど、(日本の)周りではあまりいいイメージを持ってもらうことがなくて。大学に入って『書道部』といった時に、「あぁー」と、少し舐められてるみたいな感じの時もあって。「かっこいい」と言ってくれる人もいるけど、そうでない人も一定数いて。静かでお堅いイメージもあるようだけど、それを変えたいと思って、書道パフォーマンスを積極的にやったりしました。パフォーマンスを見てくれた小学生の中には、中学校に入ったら書道部に入りたいと言ってくれる子もいて嬉しかったですね。
杉本:自分がやっている行動が、他の人に影響を与えたり、次につながるのはすごく素敵。
フランス人って絵を買うでしょう。結婚する時や、周年記念、家を引っ越す時など、そういう時に購入したいと思ってもらえるような、そんな作品を作られているイメージがあります。
鶴原:日本でもぜひそうなってほしいなと思っているし、夢です。日本では芸術作品を家に飾る文化があまりないし、字の方が絵よりも直接的。でも、絵に見える作品も作っていきたい。唯一(書道作品として)飾ってもらえるのが『命名書』だと思うので、気軽に飾れるような作品を作っていきたい。何枚かは書いたことがあって、大事な節目で自分の書いたものを選んでもらえることはすごく嬉しいです。
自分のスタイルへのこだわりと社会のニーズ
杉本:CUBEは社会科学的な学問分野だけど、このようなアプローチで卒業論文をかけたのはすごくよかったよね。
鶴原:担当の先生もすごく応援してくれていて。ありがたかったです。
杉本:みんなそれぞれの方向性で論文を書くけど、大切なことは、「どんな題材でも分析に使える」ということ。作品として突き詰めること、芸術家として大成していくことはもちろん大事だけど、それを世の中に売っていかないといけないということを考えると、マーケティングをはじめ、どこにニーズがあるのか(考える必要がある)。今後、CUBEでの学びが少しでも役に立ってくれるといいなと思います。
鶴原:答えがないし、どこにはまるかわからない。正直、最終的には好き嫌いもある。そんな中で、相手に合わせるというよりかは、自分のスタイルを好きでいてくれる人をどんどん探していくスタンスで行けたら。ある友達は、作品をUPしたら、好きなのを保存してその理由を教えてくれたり、海外のコメントをよくくれる方は細い線が好きなんだなとか。芸術作品だけど、どこにニーズがあるのか、探りながら書いている部分もあって難しいですね。
杉本:こうやれば必ずヒットがでるという世界じゃないから難しいね。でも自分のスタイルにこだわった方がいいと思う選択に至った理由はありますか。
鶴原:一時的な流行りものに乗っかって、浅く入る人もいて。その時に見ただけのもので判断されるのが怖くて。自分のこだわったものを好きになってくれる人を増やしたいです。
CUBEで得た幅広い『ものさし』
杉本:CUBEの4年間の学びの中で、今後にお役に立てた部分はありましたか。
鶴原:一番は友達との関係性を築けたことと、部活動です。作品の幅が広がりました。
あとは、1年生の時の徹底した英語の授業のおかげで、フランスに行く時も物おじせず行けた気がするので、自分を表現する方法として、英語の学びは大きかったです。
杉本:それはよかった。あなた自身がどう学んだかはもちろん、あなたの存在や活動が周りに与えた影響もすごく大きいと思う。
鶴原:周りからも応援してもらっていることを感じます。就職せずに書道を仕事にするという選択を不安に感じることもまだあるけど、「大学を卒業して就職する」ということ以外の「自分でやっていく」という選択をしたこと自体がすごいよと言ってくれる子もいます。私みたいな人もいるから、絶対就職しなきゃいけないわけじゃないんだと思ってもらえたら。
杉本:将来長く生きていく時に、同じコミュニティだけでなく、いろんなコミュニティのいろんな「ものさし」を持っているということが救いになることもきっとあるよね。
鶴原:CUBEにいるとそれはすごく感じます。私以外にも、自分のやっていることを発信している人はたくさんいて、その幅がすごく広いし、その環境だからこそできたこともあるのかもしれないですね。今思えば。
杉本:先生の立場から学生を見ているときに一番感じるのが、CUBE以外でなら、「自分の意見を言わないこと」がコミュニティでうまく残っていく方法だと思ってしまっていたかもしれない子が、素直に100%自分を出して喋っているなと感じることがあって。
鶴原:私もそれはすごく感じます。
杉本:それは本当に見事、CUBE生のいいところだなと思うよね。グループワークを見ていても、お互いの良さを認めることがすごくできている。それは対面授業の魅力かもしれないね。
鶴原:卒業を前に、家族ともCUBEでよかったねとよく話しています。書道教室の理事長も甲南大学のご卒業生で、甲南大学との縁も感じています。今後、好きなことを仕事にすることになるので、好きなことを嫌いにならない程度に頑張りたいなと思います。
自分の色を残して、染めていってほしい
杉本:最後に、CUBEに寄贈いただいた漢字一文字の作品に、『染』の字を選んだ理由を聞かせていただけますか。
鶴原:入学して部活に入るときに、その時点では他キャンパスの入部を禁止するというルールがあったのですが、なんとか入れていただいて。一人だけキャンパスが違ったので、頑張らないとなじめないと思って、イベントを企画したり、精一杯アピールをしました。その結果、頼ってもらえることも増えて。大学って良くも悪くも自由だから、何もしないでいても卒業できるし、一方で自分の存在を色濃く残すこともできる。卒業する時に、ここにきてよかったなと思いたい。今は大満足です。みんなにも自分の色をどこかに残して、染めていってほしいと思って、この字を選びました。
杉本:なるほど!自分色に「染める」という意味で『染』。「染まる」ではなく、「染める」なんですね。「染」を見た時に、「染まる」を想像してしまって、一瞬CUBEらしくないかなと思ったのですが、ストンと納得です。なにか一つやり遂げることで満足度が上がる学生生活にしてほしいですね。背景の色はどのようなイメージで?
鶴原:自分が好きな寒色系の青と、甲南大学のイメージカラーの赤系を取り混ぜました。
杉本:一つ一つがよく考えられている素敵な作品を、これから先ずっと大切に残していきますね。本当にありがとうございました。これからも頑張ってください。
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