みなさん、こんにちは。 今回のCUBE diaryでは、杉本喜美子先生が執筆した3冊の著書について、インタビュー形式で紹介します♪
ミネルヴァ書房 北川勝彦・高橋基樹(編) 2014年
担当章: 第7章 アフリカにおける金融の役割(pp. 195-220)
2.『Contemporary African Economies: A Changing Continent under Globalization』2016年
担当章: Chapter 6: Financial Development and Economic Growth in Africa(pp. 173-204)
3.『Risk Management in Emerging Markets: Issues, Framework, and Modeling』
2016年 エメラルド社 S. Boubaker, B. G. Buchanan and D. K. Nguyen(編)
担当章:Chapter 14: Regional Integration and Risk Management of African Stock Markets
(pp. 421-468)with T. Matsuki and Y. Yoshida.
『現代アフリカ経済論』は、アフリカ経済に関する各分野の研究者が集まり、「2000年代に入って急成長し、脚光を浴びつつあるアフリカ」と「貧困から脱却できずに格差に苦しむアフリカ」という二面性をどう理解できるか、その手掛かりを提供するために、各章を分担執筆した本です。私は国際金融の側面から、アフリカが資金調達でどのような問題に直面しているのかを7章で書いています。この本は、日本経済新聞をはじめとするいくつかの媒体で取り上げられ、この分野で話題となったことから、英訳本として、『Contemporary African Economies: A Changing Continent under Globalization』が作られるに至りました。私は先ほどの内容に加え、アフリカにおける金融の発展に関する自分の研究成果にも言及する形で6章を書いています。『Risk Management in Emerging Markets: Issues, Framework, and Modeling』は、新興国の金融リスクマネジメントに関して、世界各国の研究者が分担執筆した本です。大阪学院大学の松木教授と滋賀大学の吉田教授と私の三人で14章を担当し、アフリカの株式市場間の金融統合とリスクマネジメントについて分析しています。アフリカ域内では資本移動を自由にし、アフリカ株式市場の地域的な発展を促す一方で、グローバルなリスクを最小限に抑えるために、時として資本規制を設けるというシナリオを検証しています。
『現代アフリカ経済論』と『Contemporary African Economies: A Changing Continent under Globalization』の参加は、日本アフリカ学会で、アフリカ諸国の金融統合や金融政策の効果について発表していたとき、編者である関西大学の北川教授から、金融について書かないかとお誘いをいただいたことがきっかけです。最後のフロンティアとしてアフリカ市場に世界が注目しているにもかかわらず、日本人のアフリカに対する関心は低いままにあります。これは、興味を持っていても理解する術がないからではないかと考えました。我々研究者が、自分の研究対象であるアフリカに貢献したい、つまり、アフリカに進出したい企業のビジネスマンや開発援助に興味を持つ方々から、一般の方々にまで、関心と理解を持っていただくためにできることをしたい、その志がこの本に詰まっています。『Risk Management in Emerging Markets: Issues, Framework, and Modeling』の参加は、編者である三人の仏米研究者から、審査に通れば執筆できるという機会をいただいたことがきっかけです。結果的に、4倍の倍率で審査に勝ち残り、執筆することが可能となりました。
学生の皆さんに読んでもらいたい本は『現代アフリカ経済論』です。自分の担当した7章では、アフリカ国内の資本市場が未発達で資金調達が不十分なため、事業拡大には外国からの資本が欠かせないことや、資本市場を外国に開放することによってどんな新しいリスクが生まれてくるのかを説明しています。他の章では、植民地として支配された歴史から、貿易や直接投資といった現在のグローバル化の動き、さらには、日本では見慣れないイスラーム経済から民主化、援助問題に至るまで、アフリカ経済を知るために必要な項目が盛りだくさんに詰め込まれています。『Contemporary African Economies: A Changing Continent under Globalization』は、アフリカ各国の政策担当者の仕事部屋に、ひっそりと置かれることになればうれしいなと思っています。『Risk Management in Emerging Markets: Issues, Framework, and Modeling』は、分析手法に関して、ガーナやケニア、トルコなどから、既にメールでの問い合わせをいただいており、世界に散らばる同じ分野の研究者や政策担当者のアンテナに引っかかり始めていると感じています。
自分の研究は今まで『Risk Management in Emerging Markets: Issues, Framework, and Modeling』のように、英語論文にして専門雑誌に投稿し掲載されるという形で進めてきました。なぜなら、アフリカの株式市場の動き・金融政策とその効果・為替制度や金融統合の問題は、ある意味マニアックで、当然日本で関心を持つ人を見つけるのも難しいため、分かる人が評価してくれるところで戦うことが必要だと感じたからです。世界経済を把握するために、こうした問題は、決して辺境地の問題ではなく、ますます世界の中心となりうる問題だと信じてはいましたが、確信はもてていませんでした。しかし『現代アフリカ経済論』が出版された後で、アフリカに興味のある他分野の研究者やビジネス関係者、そして学生の皆さんからも、私が書いた章に関する質問や感想をいただく機会が増え、自分の研究を社会にフィードバックすることの大切さを実感するとともに、研究課題の重要性を確信できるようになり、感謝しています。
『現代アフリカ経済論』の出版は、アフリカ開発銀行の目に留まり、英訳校正の資金を助成していただき、2016年8月27-28日にケニアで開催されたTICAD6(第6回アフリカ開発会議)にて、アフリカ参加国の政策当局者に『Contemporary African Economies: A Changing Continent under Globalization』が配布されました。アフリカ開発における日本の役割と支援の在り方を考えるこの会議において、日本側がいかにアフリカに関心を寄せているのかを示す資料として提示され、多くの政策当局者から、驚きと喜びの声をいただけたと聞いています。相互理解に向けた一助となったようで、非常にうれしく思っています。いただいた機会を大事にした結果、自分の仕事を想定外の誰かが評価してくれるという貴重な経験を得ることができました。国際金融に関する問題は、とっつきにくいと感じるかもしれませんが、分かれば、国際社会を読み解くカギを手に入れられます。少しでも皆さんにその面白さを伝えられるよう、授業でも工夫し続けたいと思っています。
杉本先生、ありがとうございました。
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