どーも,新井康平@会計学担当です。もう11月に入りますね。実は,下の記事の井上先生とは違い,夏よりは冬が好きな私です。暖かいお店とかから外に出た時,油断して急に北風に吹かれたりする,そんな冬特有の感覚が好きなんです。高校受験や一般の大学受験,大学の卒業論文の提出,大学院の修士論文の提出,そして現在の私が直面している博士論文の提出のような試練が,必ず冬が明けそうになる時期にあるのは,きっと,自分を律してくれる季節的な要因があるからかもしれません。
ところで,下の下の記事で天野先輩に褒められたりして,ちょっといい気分です。いくつになっても,誰かに褒められると嬉しいですね。えへへ。さて,余計なこと書いてないで今日の本題です。せっかく,会計学の話題を振っていただきましたし,これまでキャリアの話とか,あまり自分の専門の話などもしてこなかったので,今日は,ガッツリ,会計学の話を語ります。語るぜー。超語るぜー。テーマはずばり「会計学って何ですか」です。
そもそも,会計学って必要なんでしょうか。何で,会社の儲けとかを計算するだけなのに,「会計学」なんてたいそうな学問があるんでしょうか。しかも,僕みたいな会計を研究する研究者なんかが必要で,全国でも1000人以上の会計学者と呼ばれる研究者が日夜研究に勤しみ,新しい研究成果を生み出していかなければならないのでしょうか。
それは,儲け(会計用語で「利益(profit)」といいます)であるとか,モノを作るのにかかったお金(会計用語で「原価(cost)」といいます)であるとか,そういった会計数値には絶対的に真実である,といえるものが存在しないからです。あら,大変。でも,本当に誰もが間違いないと証明できる会計数値というものが存在しない,しかし,企業や国家や自治体やNPOなんかは会計計算をしないとまずいことになる,という状態だからこそ,研究者たちが会計研究をすすめる必要があるのです。そして,皆さんもCUBEに入学してからは,経営における会計の役割を1年次の「経営学入門」で勉強しますし,それ以降も会計計算の技術である簿記の基礎や財務諸表の読み方なんかを「経営戦略の手法(1)」で,会計を組織のマネジメントに役立たせることについて「アカウンティング」などで,そりゃもう一杯勉強する必要があるのです。皆さんには一連の会計学で,ただ単に計算の技術を勉強するだけではなく,むしろそれをベースとした思考法を身につけてもらうことを狙っています。
しかし,利益や原価といったものに絶対的に真実の値が存在しない,ということは一体全体どういうことなのでしょう。例えば,お小遣い帳なんかをつければ,誰がつけたって同じ数値が出てくるはずじゃあ?と思われたあなた。あなたの思考は単式簿記です。実は,お小遣い帳のような記録システムは単式簿記というのですが,これでは,存続を前提としている組織体にとっては,十分に必要な計算が出来ないのです。そこで,一般の企業などでは複式簿記と呼ばれる非常に優れた計算システム・記録システムを採用しています。しかし,これら複式簿記が算出する利益や原価の値には,絶対的に真実の値が存在しなくなってしまうのです。この点の厳密な証明などは,William Beaver先生とJoel Demski先生という二人の有名な会計研究者が1979年にThe Accounting Reviewという雑誌に発表した論文などで実施されています(今日の写真はその論文です)。でも,ここでは,より直感的かつ具体的な事例で,この問題を考えてみましょう。イエス,下の下の記事にある,ハンバーガーの原価の事例です。
「Yahoo!知恵袋」というWebSiteでは,ユーザーの様々な質問に,その質問に答えるという活動がされています。そこでは,ハンバーガーの原価っていくらですか,という質問もされています。ところが,そこでの答えは次の3種類あるのです。
1. 60-80円
2. 56円
3. 10円以下
これら答えは,昨年にされたものですから,現在とほとんど状況が変わっていないと考えて良いでしょう。それでもこれだけ回答に幅があるのは何故でしょうか。誰かが嘘をついている?もちろんその可能性も捨てきれませんが,おそらくどれも正解でしょう。これらの幅は回答者のそれぞれの「原価」の持つ意味が異なったことによるものだと考えられます。
にしても,何で同じハンバーガーでも原価は多様なんでしょうか。実は原価を計算する方法がいっぱいあるからです。総合原価計算,個別原価計算,標準原価計算,直接原価計算,活動基準原価計算,・・・,といった風に。ここ数年では,Harvard University(ハーバード大学,アメリカ)のRobert Kaplan先生らが発表した時間主導型活動基準原価計算が,原価を計算する方法として注目を集めています。原価計算によっては,同じモノの原価を計算しても,かなり違う値を返してくることがあります。これらは原価計算ごとに,どこまでを原価に含めるのかといった範囲や,どれだけざっくり計算するのかといった計算の単純化の度合いが異なるからです。
でもこれでは,どの原価計算の方法を選べばいいんだよー,というブーイングが起きそうですね。安心してください。選択するポイントはかなりはっきりしています。原価計算を選択する上で一番重要なポイントは,「その原価を使って何をするのか」という視点なのです!例えば,原価統制(原価を管理することです)をする場合には,予定原価と実際原価の差異を分析可能な標準原価計算が望ましいといわれています。製品の追加的な増産などの意思決定には直接原価計算で計算した原価を用いないと誤った意思決定をする可能性があります。でも,財務諸表(企業の成績表みたいなものです)を作る上では,この直接原価計算を使ってはいけません。などなど。この辺の詳細は「アカウンティング」の講義で扱います。
ここで,会計学に重要なファクターが追加されたことに気がついたでしょうか?そうです,人間です。正確には会計情報の利用者ですね。絶対的に真実である会計数値が存在しないため,会計情報というのは「誰が何のためにその情報を使うのか」ということを想定しないと計算出来ないのです!これは,原価の計算に限らず,会計数値の大部分について当てはまることです。ですから現在の多くの会計研究は,会計情報が誰の役に立っているのか,どれほど役に立っているのか,という視点から研究が進められているものが多いんですよー。
さてさて,ここまで,原価計算を例に,会計学って何でしょうか,という問題を考えてきました。ここらでCUBEにおける会計学を,僭越ながら私,不肖新井康平が定義させていただきます。おっほん。
「会計学とは,社会や組織,個人についての情報を計算可能にする技術と,その情報の利用者についての学問である」
まず,会計とは,何かを計算する技術であります。その計算対象は,国家レベルや企業レベルや個人レベルさまざまです。しかし,会計学にとって計算技術と同様に重要なことは,計算された会計情報を誰が何のために使うのか,という視点であるのです。だからCUBEでは,計算方法だけではなく,その情報の利用者になったつもりで情報をどう使うかについて,みっちりと知的トレーニングを積んでいただきます。
だらだらと書いてしまいましたが,受験生の方には次の点を押さえていただければ幸いです。それは,大学に行ったら会計学っていう講義があるぞー,その講義では計算の技術だけではなくその利用者についても考えるんだぞー,ということです。
会計というものに,少しでも興味を持っていただけたでしょうか。少しでも興味を持っていただけたのなら,経営学入門以降も会計学の講義やプロジェクトでお会いしましょう。今日は,この辺りで。次回は,今日のお話で少しだけでてきた,財務諸表についてつっこんだ話をしたいと考えています。
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